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スペイン巡礼紀行文(2018年6月3日)

6月3日 Finisterre 

 昨日大西洋に沈む太陽は霧と雨でまったく何も見えなかった。刻々と変化する天気に期待を寄せたのだが、悪い方に転んでしまったようだ。せっかくここまでやってきたのだから、もう一泊してトライしてみたい。

 カミーノは何度も書いてきたように天国のように楽しいところだ。自然も人々も生命力に溢れている。しかし、その陰には巡礼の名前から想像できるように、それとは正反対の死が存在する。デンマーク人のリスベスは今回のカミーノは芸術家だった姉の突然の死がきっかけだったと告白してくれた。すでに書いたが、北の道でもっとも人気のあるアルベルゲのミーティングルームで紀行文を書いていた時、隣の席の男女の会話が耳に入ってきた。若いイスラエル人女性の「なぜカミーノに来たのか」という率直な質問に対して、中高年男性は「妻の死だ」と答えていた。
 アルベルゲの中庭で、私は海を眺めながら一人で夕涼みをしていた時、フランス人のダニエルがやって来て、「これが最後のカミーノになるかもしれない」と何度も呟いた。彼は癌にかかっているのだった。「カミーノは唯一の家族だ」ともダニエルは語った。

「カミーノはひとつの大きな家族」という言葉は何度も何度も聞いた。巡礼者達の思いはひとつなのだ。家族みんなの幸福を願っているのだ。

 この世で幸せに生きるとは与えられた自分の命を大切にし、知り合った人々との絆を温かいものにしていくことに他ならない。

 我々の祖先はアフリカの大地で両足で立ったとき、遠くまで見通せるようになった。あの地平線の向こうにいったい何があるのだろうか。興味が起き、胸が躍ったことだろう。好奇心の始まりだった。

 アフリカの豊かな大地は乾燥化が進み、彼らは食糧を求めてアフリカから脱出したと専門家は言う。エデンの園からの追放だ。しかし、人間は遠くに行ってみたいという好奇心のほうが強かったのではないかと、私は勝手に想像している。

 厳寒のシベリアを渡るうちに、凍傷から守るために、東洋人の鼻は低くなり、脚は短くなった。さらに、人類は氷期にかかわらずベーリング海峡を歩いて渡り、新大陸のアメリカに入って行く。

 イエスも仏陀も歩いて巡礼するなかで悟りを拓き、新しい宗教を興した。散歩が習慣化していた哲学者のカントは近代への道を切り開く学問を築き、西田幾太郎は京都の小路を歩きながら新しい哲学を思いついた。

 そして、カミーノの巡礼者達は美しい自然界のなかを歩いて心を純化させ、多くの掛け替えのない友達を作った。

 人間は歩くことによって進化し、成長してきたのだ。

 さぁ、両足で立って歩き始めよう。明るい未来は懐かしい過去のなかにあるのだ。祖先の感じた興奮を思い出そう。

Ultreia. Animo. Nos vemos. 勇気を持って前に踏み出せ。頑張れ。また会おう。
Alle Menchen werden Bruder. 人類は皆兄弟になる。
Where there is a will, there is a way, the Camino.
God bless you.
And keep on smiling until the next Camino.

 また来年、カミーノの巡礼路でお会いしましょう。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(了)