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スペイン巡礼紀行文(2018年5月30日)

5月30日 Santiago滞在

 昨日午後7時30分から始まったミサに出席した。似たような儀礼の繰り返しなのだから出席したいという強い意志があった訳ではないが、自然と足が向いたのだった。ボタフメイロが見られると余り期待していなかったが、セレモニーが終わると会場がザワザワし始め、大きなボタフメイロに香が炊かれスイングが始まった。運がいい。

 中世の巡礼者は現代と比べものにならないくらい体臭が酷く、その臭いを消すために開始されたのだが、今では観光客集めの目玉となっているようだった。イベントは10分たらずで終了するが、静的なセレモニーがボタフメイロの躍動によって破られ、雰囲気が一変した。感動的だった。

 このミサの会場でも、ドイツ人男性とスペイン人男性の巡礼者と遭遇し、力強いハグをして健闘を称え会った。昼食会場で出会ったスペイン人女性は目に涙を浮かべていた。敬虔なカソリックの信者なのかもしれない。

 街のレストランで夕食を1人で終えて、世界文化遺産に登録されている街を散歩しながら宿泊地のパラドールの前まで戻ってきた。隣の大聖堂の前の広場から賑やかな音楽と歓声が聞こえてきた。何だろうと思い近寄ってみると、数人のスペイン人が民族衣装を纏い、民族音楽を奏でていて、観光客や巡礼者が取り囲んでいた。
 ここでも予期しない出会いがあった。オランダ人のナンとの再会だ。明日帰国すると言っていたので会うとすると今日しかなかったのだ。

 ナンも驚き、ハグをして再会を悦びあった。今日何回目のハグだろうか。音楽に合わせて、見よう見まねで2人でジルバを踊り、バカみたいに笑いあった。ナンが私の年齢を聞いてきたので、正直に答えると、「私と同じ」と返事がかえってきた。訳も分からず、またハグをした。童心に戻っているため、何にでも感動するのだ。

 ナンは明日の早朝バスで、巡礼出発地点の900km離れたイルンへと向かう。彼女は「この5週間見てきた風景を思い出しながら1日のバス旅行を楽しむ」と言う。私は「今まで会ったオープンマインドな素晴らしい巡礼者達のことも思い出しながらね」と付け加える。ナンは大きく首肯く。
 彼女は明後日には、イルンに置いてきた自家用車に乗って、15時間かけて1500km離れたオランダの実家に戻ると言う。非常にエネルギッシュだ。そして、医者の仕事に復帰する。彼女はいつかオランダにも来てねと言ってくれて、私は次回は美しい日本の四国お遍路を歩きましょうと応じた。メールを交換し、別れて別々の方向に歩いた。

 北の道の巡礼者はほとんど50歳代後半から70歳代前半の元気な人々だった。みんな退職前後の同世代のため、言葉以上にお互いの心情が理解できたと思っている。
 人生にとって本当に大切なものは何か、言葉にすると、ありきたりのことになってしまうが、みんなそれをしっかり心に刻んで生きている。思いは同じだ。

 60歳代、70歳代さらには80歳代も人生の黄金期である。

 もう現役時代のように嫌なことや、自分に合わないことをやる必要はないし、見栄を張って自分を大きく見せたり、意地を張って能力を誇示したりする必要なんてまったくない。自分の好きなことをやって、自分の波長に合う友達と深いお付き合いをしていけばいいのだ。人生のもっとも輝かしく、かつそれを完成させるべき時代なのだ。

 サンティアゴ巡礼は素晴らしい舞台装置である。ヤコブ様に心からお礼を言いたい。

 

 巡礼の旅はこれで終了ではない。90キロ離れた大西洋の街まで歩く巡礼がまだ残されている。今日は休養日として、明日から3日かけて歩くことにしている。

 バスタブの付いている高級ホテルに泊まったのだからと思い、朝食を腹一杯食べ、そして朝風呂にも入った。今までシャワーばかり浴びていたので、足の指の間など色々なところにアカがたまっていたようだった。汚れが落ちると、気分も明るくなる。

 フロントでチェックアウト直前の正午前に支払いを終えて、少し郊外にあるペンションに向かった。宿泊ホテルの変更である。
 この辺りかなと思ったところで、1歳くらいの女の子を抱っこしている男性に道をスペイン語で聞いた。やり取りすると、まったく違う方角に歩いてきていることが判明した。

 男性は「クルマでホテルまで送ってやるから1分待っていろ。この子を家に預けてくる」と言うのだ。私は突然の申し出に戸惑った。安全上昼間でも見知らぬ人のクルマに乗るのは避けたかった。でも、サンティアゴ特有の雨も降っているし、悪い人には見えそうにもない。ここは成り行きに任せることにした。

 彼のクルマはスペインではまだ少ないトヨタだった。彼はトヨタをべた褒めする。そうか、日本贔屓だから私に親切にしてくれたのかもしれないと思った。トヨタに感謝しなければならない。

 トヨタのクルマは2km走ってペンションの前に停まった。丁寧にお礼を言って、描いていた水彩画を1枚差し上げた。私からできることはこれくらいしかなかった。サンティアゴの街はユネスコの世界遺産にも登録されていて、住民はそれを非常に誇りにしているが、それでなくてもガリシアの人々は親切なのだ。

 ペンションのバルコニー付きの部屋はパラドールの3分の1の値段しかしないが、バスタブがないことを除くと、パラドールの部屋よりも贅沢に作られていた。部屋に飾ってある絵画もパラドールのものより私の趣味に合っている。

 パラドールの悪口を言うわけではないが、部屋の鍵が旧式のため、数分格闘したが開けるコツが分からず、結局広い中庭を通ってレセプションまで窮状を訴えに行ったのだった。やはり、私には5つ星ホテルは正に合っていないということだろう。もうそこには宿泊しない。

 ペンションではウェルカムドリンク付きで温かく迎えられた。中庭も気に入ったので、さっそく写真を撮って、上品なキッチンで1枚絵を描いてレセプションの女性に差し上げた。

「綺麗だわ」とスペイン語で言って、喜んで受け取ってくれた。「またこのペンションに来てください。その時にはこの絵画をメインホールに飾っておきますから」と言ってくれた。

 明日からは大西洋の見える地の果ての街を目指す。