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破壊願望

 サイコパスという言葉は、映画『サイコ』、『羊たちの沈黙』、『悪の教典』などの影響で冷酷な殺人者という悪いイメージが強い。でも、サイコパスというのはそもそも心理的傾向を示す心理学上の専門用語であり、悪くも良くもないニュートラルな意味しかない。
 でも、人口の1%はサイコパスと言われているから、本人もそれを知らずに生きている可能性は高い。サイコパスの特性には、冷酷、無慈悲、恐怖心を持てない、後悔しない、自己中心、集中力が強い、合理主義、結果至上主義、利得主義が挙げられる。冷酷さや思いやりのなさは通常に人々から見ると、コミュニケーションの基本を欠くとして恐れられるのだが、彼らは普通の人々がパニックに陥るような場面でも、冷静で合理的な判断をすることができるので、必ずしも悪い面ばかりではない。凡庸な人々は人間関係に脳の大部分を使うため、それだけで疲れてしまうが、サイコパスは自己中心で打算的なため、生産的なことに頭脳を使う。合理的な判断や損得勘定が特異な人が多く、IQも高い者が多いと言われている。そのような彼らは、時によって、カリスマ性が高く、プレゼン力があり、コミュニケーション力や戦略性を発揮する。そのため、企業経営者、政治家、外科医、弁護士などはサイコパスが多い職業と言われる。歴史上の人物では、織田信長、ヒットラー、毛沢東、スティーブ・ジョブズがその典型例と分析する専門家もいる。強烈なリーダーが備えるべき能力と考えられるのだ。

 知的障害者や発達障害者で特異な才能を発揮するサヴァン症候群と呼ばれる人々がいる。ダスティン・ホフマン演じる、映画『レインマン』のレイモンド役でこの症候群が有名になった。彼らは計算や音楽や絵画で抜群の才能を発揮する可能性がある。
 特定の分野に強いこだわりを持つアスペルガー症候群には数学者が多いと言われている。難解で抽象的な世界を理解し、思考を続けられるのだから、常人では窺い知れない。でも、このような人々は学問や文化の発展に必要不可欠な存在である。

 サイコパスやサヴァン症候群がなぜ人間社会に存在しているのだろうか。それは進化の過程で解明されなければならない。生物は生存のために種の多様性が不可欠だと言われる。急激な環境変化の際に、能力を発揮できる個体が必要になる。民族の危機が迫ったとき、全員うろたえていては存続は不可能だ。サイコパスは人の感情にも無関心であるが、危機に際しても冷徹であり、合理的な判断ができる。このような事態に陥ったときに彼らが活躍する機会が訪れると考えれば、細々と存続してきた理由が分かる。

 優れた企業経営者や政治家も同じだろう。危機的な状況下で、一部の仲間を平気で切り捨てられる冷酷さがなければ、全員が滅んでしまう。平和なときには、異端視されがちなサイコパスは社会変革の際に希求されて、登場してくる。旧社会を打破し、新しい時代を切り拓くためには常人には狂気にみえる指導者が必要なのだろう。生物進化の厳しい掟である。

 さて、トランプ大統領はなぜ選挙に勝ち、登場してきたのだろうか。彼を担いだのは閉塞感に打ちひしがれている貧しい人々である。努力すれば報われるという理想はウソだったと信じている白人たちだ。従来正しいとされてきた米社会の理想は行き詰まり、改革の時を迎えているのかもしれない。トランプ大統領はサイコパスである。
「米国第一」はとりもなおさず、自己中心主義である。過去にやったことを後悔するこもなく、根拠のない自信に溢れている。思慮が深いとも思えないが、人々を熱狂させられる素質は十分だ。旧体制を支える学者やマスメディアがトランプ大統領を敵視しているのは、ドヴォルザークではないが、新しい新世界に踏み出す新大統領を恐れているからだろう。

 彼は民族対立という米国のタブーに触れてしまった。パンドラの箱を次々と開けようとしている。狂気の沙汰ではないと思われがちだ。これを民主主義の危機と呼ぶのは自由だが、民主主義はこのような人物を定期的に選んできたのも、歴史の曲がり角に来ているからだろう。時代はサイコパスの遺伝子を必要としているのかもしれない。創造は破壊や混乱とともにやってくる。技術イノベーションもサイコパスによって加速化されるだろう。

 トランプ氏の台頭を怖いもの見たさに、期待している自分がここにいることに気がつかされる。普通の人々はこのままでは大事な秩序が壊れてしまうと懸念しながらも、毎日トランプ氏が巻き起こす次のニュースを楽しみに待っている。サイコパスは人の心の底に渦巻く破壊欲望を刺激するのがじつに巧みである。

 彼が連れて行ってくれる場所はどこなのだろうか。天国とは思えない。地獄になる可能性は高い。それは心理的に我々が選んだものかもしれない。人間とはかくも不可思議で、恐ろしい動物なのだろうか。

(2017年2月13日、寺岡伸章)
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