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他人の日常

 SNSは世界中の誰とでも友達になれるツールとしてもてはやされている。ITは地球上の人々をネットで繋ぐまで進化したのだ。先端技術は素晴らしい世界を生み出したではないか。世界をワクワク、楽しいところに変えたのではないか。凄いことだ。と誰でも思うかもしれないが、そのような時代の波についていけない人もいる。わたしもそのような人物の一人だと思う。なぜそうまでして急ぐのだろうか。みんなどこに行こうとしているのだろうか。そこは本当に楽しいところなのだろうか。

「自分の水曜日の出来事」を手紙に書いて送ると、「誰かの水曜日」が代わりに届く、世界で唯一の郵便局が熊本県の港町にある。津奈木町にある「赤崎水曜日郵便局」である。
 わたしは、今まで5通の手紙を書き、5通の返事をいただいた。自分で書いたものはどう評価していいか分からないが、受け取った「水曜日の物語」にはその人の人生が凝縮されていると思った。何気ない平凡な日常のなかに、その人の楽しみや悲しみが詰めらている。若い娘の心の震えが伝わってくるものもあった。

 KADOKAWA書店がそれらの手紙の中から選抜したものを編集した『赤崎水曜日郵便局』をいう本を出版した。そこにもさまざまな「日常」が綴られている。でも、どれもかけがえのない水曜日の平凡な出来事である。人生が劇的な出来事や勝利の美酒で構成されているわけではない。大半は平凡な日々であったり、努力と汗の結晶の歳月だ。楽は少なく、苦痛と惰性が多いのが人生と言えるだろう。
 そんなところにこそ、人生の真実が潜んでいると分かるようになったのは、わたしが還暦を迎える成熟した年齢になったからであろうか。失敗ばかりしていても、人生は楽しい。成功する奴らなんかいやしないのだから。

 手紙は手書きで書かれている。ワープロで書いて送ってくる人なんていやしない。人は心の底から思う大切なことを表現しようとすると、手書きになってしまうらしい。
 仕事で書く建前のことはワープロの字が向いているのだ。仕事の文章は人生の飾りであり、手紙の文章は心の叫びだ。仕事は外であり、私生活は内である。手紙は人とつながりたいという欲求の現れである。だから、嘘は書けないし、書いたらすぐばれてしまう。

 赤崎水曜日郵便局は1万通の手紙が人々の心を結びつけてきたが、今年の3月でプロジェクトは終了する。宇宙にも、地球にも、人間にも寿命があるように、この素敵な郵便局ももうすぐ閉鎖される。
 さて、わたしはあと何通の手紙を書くことができるのだろうか。そして、まだ知らぬどんな水曜日の物語が手元の届くのだろうか。
 ワクワクドキドキしながら、あと2か月が過ぎるのを待つことになる。大切な歳月をけっして無駄にしたくない。

(2016年2月5月、寺岡伸章)
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